西洋医学は人を見ず、は嘘

「西洋医学は人を見ない。部分しか見ない。データばかり見ている。漢方は身体全体にアプローチできる。」、「病院の薬は症状を抑えるだけ。医療大麻はエンドカンナビノイドシステムを調和させて身体全体の調子を整え根本から治す。」、「西洋医学はなんとなく調子が悪いといった不定愁訴には対応できない。対応できるのは鍼灸などの代替医療だけ。」といったような「西洋医学と比べて代替医療は優れている。」という意見をSNS等で見かけることがあります。結論から申し上げますとこれは完全な間違いです。これは医療制度の問題であり、医療そのものの問題であることが多く現代医学や病院の薬に比べて代替医療が優れているという証拠はありません。相互不信をあおるよりも、様々な治療法の特性を知ったうえで医療を信用し上手に選択出来る方が安全で満足度も高いと思います。以下に詳しく書いていきます。

 

(1)西洋医学と東洋医学という対比がおかしい

東洋医学とは何でしょうか?辞書で調べると東洋、特に中国の伝統的医学。(参考:広辞苑)との記載があります。一般的には鍼灸や漢方などの中国伝統医学を指すようで私もそのように認識しております。この中国伝統医学ですが確かに現代医学とは理論体系も違えば処方されるお薬も違います。ですが西洋医学の対比やカウンターとして語られるには無理があるのです。大きく三つの理由に分けて説明します。まず第一に、中国伝統医学と言っても鍼灸や漢方、導引など様々な手法があり一言で表すのは無理があります。主語が大きくなってしまうとミスリードになる可能性が高くなります。第二に、現在は双方の良いところを医師管理のもと利用するような「統合医療」という考え方もあり二元論的に対比することは出来ません。第三に、鍼灸や漢方も現座進行形で科学化がどんどん進んでいます。特にアメリカや中国、ドイツなどは鍼灸や漢方の研究が盛んです。東西はもはや関係ありません。以上三点が主な理由ですが、そもそも「東洋医学」という言葉には西洋医学・現代医学へのカウンター的な意味は含まれません。

 

(2)現代医学にも「患者中心の医療」や「不定愁訴への考え方」がある

「現代医学(西洋医学)はデータしか見ない、部分しか見ない。」という意見についてですがこれも完全な誤解です。患者中心の医療(Patient-centered clinical method(PCCM))という考え方・技法があります。まだまだ数は多いとは言えませんがこれを取り入れて実践している病院もあります。現代医学ではエビデンスが重視されますがEBMの考え方とは「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、「患者の希望・価値観」、「(個々の)臨床の状況」を考え合わせてより良い医療を目指そうとするものです。データばかり見ていて人を見ないというのは完全に誤解です。そう思われてしまうのは現代医学の問題というよりは医療制度の問題で医師が多忙すぎて、患者とあまりコミュニケーションができない、信頼関係を築きづらいことが問題と言えるかもしれません。

不定愁訴に対する考え方もあります。一例をあげると「医学的に説明できない症状」のことを英語でMedically Unexplained Symptom といいMUSと略されます。これは文字通り様々な症状があり、十分な診察や検査等をしてもその原因を医学的に説明できない状態を指しています。厳密にはさらに類似する概念として機能性身体症候群functional somatic syndoromes:FSS)、身体症状症(somatic simptom disorder:SSD)などがあります。FSSは「訴えられる症状やや苦悩の程度が確認できる組織障害の程度よりも大きいという特徴がある症候群」のことです。過敏性腸症候群や機能性ディスペプシア、線維筋痛症など個々の診断定義が整っているものもあります。精神面→身体面に影響を及ぼしていると考えられることが多いです。SSDは「一つかそれ以上の身体症状を訴える者のうち身体症状や健康に関する思考や行動、感情が過剰であるもの」と定義されています。FSSとの違いは器質的疾患の有無を問わないという特徴があり身体面→精神面に影響を及ぼしているという見方もできます。不安障害や精神障害の合併も少なくありません。MUSはこれらを包括する概念で一般的には自律神経失調症、不定愁訴などという呼ばれ方をすることもあります。

 

(3)補完関係が望ましい。現代医学不信をあおる代替医療は時代遅れ。

医療システムの弊害で「疾患がないのに症状がある(取れない)のはおかしい」という考え方が患者だけでなく医療者にもある場合があります。そのような場合患者の自覚症状と医療者の説明にずれが生じてしまい「この苦しみを医療者が理解してくれない」となり信頼関係を築くことが難しいケースもあるのです。また慢性疾患のようになかなか改善しない病気も決して少なくはありません。薬を使って症状を消す事に注目せず今の状態をよりよくする、QOLあげるwell beingという考え方が役に立つ事も多いです。代替医療がそのような症状緩和が得意な場合もあります。十分な説明や理解がないまま薬だけ出されてあまり効果がなく、医療不信になってしまった方もいるでしょう。それはとても残念なことです。現在の国民皆保険の医療制度は、医師や看護師の負担が大きく一人一人とコミュニケーションをとる時間が多いとは言えない事もあります。医師は短い時間の中で「重大な病気が隠れていないか?」に注力しますが、そのことが患者が求めていることとズレが生じて信頼関係が築けないこともあるのです。これは誰のせいでもありませんが非常に残念なことです。

残念ながら医療不信や社会不信を利用しビジネスにつなげたい人はたくさんいます。特にがんやアトピー性皮膚炎など難病の領域で多いです。がんと診断された人が月にどのくらい代替医療にお金を使っているか?興味深いデータがあります。なんと平均して月に57000 円で、年間にすると 684000 円ものお金を使っているそうです。中には月に50 万円近くも使っているという方もいます。(参考:第16回がんサバイバーシップオープンセミナー)このようにたくさんのお金が動く市場であるためビジネス目的で、たいして効果がないサプリメント等を売りたい人が後を絶ちません。社会不信や医療不信が強い人の不安あおりカウンター的な意味合いで現代医学(西洋医学)を悪く言うことが多いのです。カルト宗教の手法と同じです。

その弊害はとても大きく病気を見逃したり悪化させる原因となってしまうため、そのような手法は時代錯誤となっています。反ワクチンや政治と結びついていることも問題視されています。アメリカでは代替医療(Altanative medicine)という言葉自体、通常医療を否定する意味合いがあるためにもはや使われなくなっています。「Complementary and Alternative Medicine(CAM)」すなわち補完代替医療を意味する言葉が使われます。また統合医療のような考え方もあります。もしも極端に現代医学の不信感をあおったり代替医療がものすごく優れた治療法だと喧伝している人を見たら疑ってかかることをオススメします。大事なのは信頼であり相互理解と補完関係です。

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