なぜ人は病気で大麻に頼るのか?

人は治りづらい病気になってしまったときに大麻やほかの補完代替医療に頼ります。それは医療人類学的な視点から見れば容易に説明することが出来ます。薬草大麻の利用も「エビデンスがあるからなされている」だけではなく「治りづらい病気があるから、少しでも症状を軽くしたくて頼る人が多い。」ということでしょうか。詳細は以下。

 

医療社会学と医療人類学

社会学分野の一つに「医療人類学」というジャンルが存在します。医療社会学に似た分野ですが医療システムよりも『患者の受療行動』に注目している学問という見方もできます。以下、論文から定義を抜粋します。★1

 

 

医療人類学という学問の体系化に先駆的な役割を果たしたFosterらは、「医療人類学とは、医療システムの通文化的研究を通して、健康と病気の発生に影響を与える生物生態学的(bio-ecological)および社会文化的 (socio-cultural )要因について、現状と人間の全歴史を比較文化的に注目しようとするもの 」であるとしている。英国における医療人類学を確立したHelmanは「医療人類学とは 異なる社会文化的背景を有する人々が、病いや健康の原因をどのように考え、 病気になったときに、どのような対処法が適しているか考えどのような行動をとろうとするかなどを扱う研究分野である」とし病者の医療行動を軸にとらえている。

 

 

医療社会学では医療制度について「多元的医療システム」という言葉で説明されますが医療人類学では多元的ヘルスケアシステムとして以下のような分類で説明されます。★1

 

 

(1)民間セクター(popular sector):自己治療や家族・知人などの素人間のネットワークからなる医療 。古くから家庭の医学と言われてきたものや、工業性医薬品(市販薬)、民間薬、健康食品、サプリメントの利用などがこれに該当する。

(2)民俗セクター(folk sector ):漢方や鍼灸、 信仰や宗教的治療、多くの伝統医療・民間医療の治療家による準専門的医療。近年、補完代替医療として注目されているものの多くはこの範疇に入る。

(3)専門職セクター(professional sector ):病院や診療所などで行われている。科学的な生物医学に基づく医療。制度として認められている正統医療。

 

カリフォルニア州など合法化された地域での薬草大麻の利用について考えてみましょう。自家栽培し自己使用すれば(1)であり、ディスペンサリーで相談を受けながら購入すれば(2)、であり医師から処方されれば(3)、となります。同じ大麻の利用でも医療人類学的な視点から見ればケースバイケースです。そして、受療行動としても以下のような重要な考察がまとめられています。

 

 

 

人々の受療行動 (illness behavior)は病者の属性 (社会経済的背景、病気に関する経験や信念のパターンなど)、 治療者の属性(民族性、地域性、専門性、人間関係の広さなど)、病気そのものの性質 (病因や症状の種類や重症度など)、 病者を取り巻く家族・親族・地域 共同体の病者への関わり方、そして治療法の選択や評価を支配している社会規範・諸制度など、さまざまな要素が絡み合って決定されることが知られている。多くの人々は、心身の不調を認識すると、まずは民間セクターにおいて自己治療を試みる。しかし、そこでうまく自覚症状が解消しなかったり逆に悪化したりした場合に、人々はそれぞれの価値観に照らし合わて、専門職セクターを受診するか、民俗セクターを受診するかを選択する。先に専門職セクターを受診したものの、そこでの診断・治療に満足がいかなかった場合、民俗セクターのよい治療家を探して受診するということがある。また、これまでの受療経験から西洋近代医学に対する不信感を抱いている者や、できる限り自然な索材を使い自然治癒力を導く治療法を求める者は、はじめから民俗セクターを利用する。病者はこのヘルス・ケア・システムの中を縦横無尽に渡り歩きながら、自分の不調に適切に対応してくれる治療者をみつけていることがわかる。

 

その人の価値観、生活、病気の症状など様々な状況に応じて、人々はサプリメントや売薬、漢方や鍼灸などの代替医療、病院の治療などを使い分けていることもが見てとれます。まさに「ケースバイケース」で医療を選択していることが見てとれます。

 

「受療行動」に注目する。

 

一般的に人々が民間医療・補完代替医療を利用する場合として医療社会学者の黒田らは以下のような分類をしています。★2 これは非常に興味深い指摘で鍼灸院等を利用する患者さんの特徴とも当てはまる部分があります。以下に私の解説も含め引用していきます。

 

 

A,明確な白覚症状があるにもかかわらず正統医療では異常が検知できず, 疾病カテゴリーに合わない状態
心身症、自律神経失調症、うつ状態のような状態。病院では異常なしと診断されることが多い。ストレス性の疾患など。

B、筋肉や骨などの痛みで正統医療では対処できない状態。慢性疼痛、腰痛症などいわゆる痛み系疾患など。

C、正統医療では完治することがきわめてまれで、症状をコントロールすることはできるがそれも必ずしもうまくいくとはかぎらないような状態。慢性疾患、精神疾患、体質によるもの、緩解が難しく長期化するような疾患など。

D、 正統医療では決定的な治療法がなく生命の危険があるような状態。がんや難治性疾患。終末医療など。

 

・・・あえて言うならば中には「どうしていいのかわからない、問題を整理・理解できてない」というパターンもありますがこれは例外的でほとんどが上記分類にあてはまります。

 

適応症の類似性

また補完代替医療にはよく「適応疾患」、「適応症」というものが存在します。あくまでも参考・目安程度というものも多く注意する必要がありますが一例として1979年にWHOが出した鍼灸の適応症をあげます。これは科学的根拠に基づいているわけではありません。

 

 

神経系疾患
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー

運動器系疾患
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)

循環器系疾患
心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ

呼吸器系疾患
気管支炎・喘息・風邪および予防

消化器系疾患
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾

代謝内分泌系疾患
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血

生殖、泌尿器系疾患
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎

婦人科系疾患
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊

耳鼻咽喉科系疾患
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎

眼科系疾患
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい

小児科疾患
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善

 

同じような適応疾患リストは大麻にもあります。カリフォルニア州で大麻の医療利用に尽力したトッド・ミクリヤ博士の250の疾患リストです。

双方とも・・・ずいぶんと幅広い印象があります。そして痛み系疾患だけでなく治りづらい疾患、コントロールしづらい疾患、慢性疾患なども並んでいる様子が見てとれます。現在RCT(ランダム化比較試験)を行い効果を測定したら有意差が出ないもの、すなわち効果があまりないという疾患も多く存在するでしょう。しかしながらそれはあまり問題ではありません。患者の受療行動に注目すると

 

 

通常医療では治りづらい疾患、治らない疾患が存在する → 補完代替医療(民俗セクター)に頼る人が現れる → 因果関係はともかく、治療を行った事である程度良くなる人も出る → 適応疾患として認識される。

 

という図式が容易に想像できます。

 

つまり効果があろうがなかろうが、その方法が法律で禁止されていようが治りづらい疾患・治らない疾患がある限り人は補完代替医療を求める。という見方もできます。エビデンスがあるからその治療法が続いているのではなく、治りづらい・治らない疾患に対し期待をもって頼るのが補完代替医療の領域なのではないか?と考える事もできます。プラセボ(心理的な効果)も含めて、何件かのうち一件でも良くなればその治療法が効いたと認識されて、ほかの人の期待度も上がり更にプラセボ効果は高まるのかも知れません。

また治りづらい・治らないような病気になってしまったときに家族や友人はお守りを贈ったりするかもしれませんし、その人のために祈るようなことをするかもしれません。それを「エビデンスがないからダメ」という理由で非難することや否定することは誰にもできません。補完代替医療にはこれに似た側面があるのです。ですから補完代替医療(鍼灸や大麻などの民俗セクター医療の意味)はどこの地域にも存在しますし、これからもなくなることはありません。そしてだからこそ補完代替医療と付き合う際には個人の好みだけでなく「科学的な根拠」、「その治療法の限界」、「選択の順序」などが大切なのです。そうしなければ病気を見逃したりして不利益があることもまた事実なのです。

 

出典

★1 辻内琢也ら:心身医学研究における医療人類学の貢献

★2 黒田浩一郎 :民間医療と正統医療の地政学的 “関係”

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