大麻の医療利用に関する、日本での情報の偏りを是正するには?

2023年末、日本では70余年ぶりに大麻取締法が大きく改正され、「良い大麻」と「悪い大麻」が規定(*参考1)されました。日本文化領域、産業領域は「良い」、嗜好領域は「悪い」とされましたが、医療領域は話が複雑です。医師が管理し、特定の疾病の治療のために処方される「医薬品」と、ウェルネスやセルフケアなど「広義の医療」として、健康増進のために用いる「薬草」に大別されるためです。なお、今回の改正で前者は「良い大麻」、後者は「悪い大麻」と規定されました。さらに、国内でも人気のCBDは「薬効あり」という信頼性の高いエビデンスがありながらも、「食品」という形でも流通しています。

このような複雑さが一因となり、日本社会では大麻の医療利用に関する議論がなかなか広がらない状況が続いています。また「違法」であるがゆえに、SNS上などでは「万病に効果」「神の草」「癌が治る」と言った根拠のない極端な言説も散見されます。

こういった情報の偏りを是正するにはどうすれば良いのでしょうか?「教育」という形を通して、大麻の医療利用に関する情報発信を続けているMM411 JAPANのカート&キミエ・ハーンさんに話を伺いました。

MM411 JAPAN

2009年、アメリカのワシントン州にて設立されたカンナビノイド医学Eラーニングのパイオニアカンパニー。日本法人は2020年にスタートし、カンナビノイド医学をはじめ、ヘンプ(産業用大麻)、日本の大麻文化といった講座も開設。

患者さんたちに、より多くの選択肢を

ラボ:MM411について、簡単に教えてください。

ハーン夫妻:MM411は「教育」を通じて、患者さんたちがより多くの選択肢をもてるように、というミッションと共にアメリカで設立された法人です。私たちの講座は北米や日本だけではなく、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、EUといった地域でも展開しており、facebook上のコミュニティには100万人以上の方々が集まっています。私たちはそのパッションに共感し、2020年に日本で事業をスタートしました。

ラボ:ありがとうございます。講座を受講する人はどういった方が多いのでしょうか?

ハーン夫妻:核となるお客さまは現代医療だけでなく、代替医療も含めた医療従事者の方々です。アメリカでは、放射線治療の嘔吐を防ぐという目的や終末医療といった目的で、癌関連のドクターが興味を持つことが多いでしょうか。研究レベルでは自閉症関連の方々、現場レベルでは不眠や疼痛緩和に関連する医療従事者の方も多いです。また、獣医の方、看護師の方、ウェルネス関連の事業者の方も目立ちます。

一方、日本において、大麻は現在も「タブー」な存在となっています。しかし、内科、外科、皮膚科、泌尿器科などのドクターをはじめ、様々な医療従事者の方々に私たちの講座を受講頂いています。緩和ケアなども行う外科医の方で、現代医療にある種の限界を感じて、私たちにコンタクトしていただいたという方はとても印象に残っていますね。日本で私たちの講座を受講していただいている方々は北米などと比較し、「真面目」と言えると思います。何らかの好奇心をきっかけに、わざわざタブーを乗り越え、わざわざコストをかけ、学ぼうとするわけで、総じてモチベーションが高いという印象です。

現在の国内状況

ラボ:海外の事情に詳しいお二人から、現在の日本国内の状況はどのように見えていますか?

ハーン夫妻:現代医療の領域で言えば、抗てんかん薬「エピディオレックス」(*参考2)は法改正により合法となりました。ただ、信頼性の高いエビデンスがある疾病は他にもあります。行政には今後、他の疾病へ適用を広げる方向でお願いしたいと思います。

ウェルネスの領域、CBDを中心としたカンナビノイド関連に関していうと、事業者の入れ替わりの激しさも含め、非常にカオスな印象です。ルールがきちんと整備されていないが大きいのでしょうが、持続的な成長に向かって投資を行っているのではなく、ある種のサバイバルゲームを行っているように見えます。今後もその状況は続くのではないでしょうか。

ラボ:法改正により、「薬草」としての利用はこれまで以上に厳格な扱いとなりました。

ハーン夫妻:現在、「薬草」に関する議論は少し停滞気味な印象です。こういった議論は一直線ではなく、前進と後退を繰り返すのだと思います。例えば、アメリカでは大麻の医療利用に関し、シャーロットさんの件(*参考3)が世論の風向きを変えた部分はかなり大きい。日本でも、何かそういったトリガーが必要なのだとは感じます。ただし、アメリカとは医療保険制度(*参考4)や大麻への距離感など状況が大きく異なるため、何がトリガーとなるかの予測は難しいのですが。

どこまでが自己責任?どこまでが国が決めること?

ラボ:やはり「過渡期」ということですね。今後の展望を教えてください。

ハーン:MM411 JAPANをスタートさせて数年が経ちますが、やはり日本はまだまだ情報が非常に偏っており、正確な情報が伝わっていないという実感があります。そのため、今後も「教育」という部分にフォーカスしていきたいと考えています。そこは変わりません。ハードルが高いのは事実ですが、特に医療従事者の方々にもっと働きかけていきたいです。そして、色々な情報に翻弄されているように見えるユーザーの方々と医療従事者の方とのギャップを埋めていきたいとも考えています。

ラボ:大麻は「違法」であるからこそ、どうしても医療的な文脈の情報が誇大広告的だったり、陰謀論的になりがちですよね。

ハーン:私たちのスタンスは、あくまでも研究ベース、サイエンスベースです。例えば「大麻で癌が治る」といった言説は無理があります。一方で、現在の日本では有用な選択肢を奪っているとも言えます。これは好ましい状態ではありません。どこまでが自己責任で、どこまでが国が決めることか、といった医療のあり方についての議論も盛り上がって欲しいと思います。

参考

1:週刊プレイボーイNEWS「取締法改正でどうなる? 日本における良い大麻、悪い大麻を規定「大麻業界」の今とこれから」 

2:日経バイオテク「エピディオレックスとは?」 

3:ナショナルジオグラフィック「医療大麻で救われる人々と、私も服用してみました!」

4:薬草大麻ラボ「なぜ、カリフォルニア州は「医療大麻」合法化の一大契機となったのか?日米における医療保険制度の違い」 

取材:2024年5月30日